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音楽プロデューサー/作曲家
蔦谷好位置

4年間は、飛躍するための準備期間だった。

音楽の道を行くのか。見極めたかった

北海学園大学に入学した理由は、父親もこの大学出身だったこと、自分の学力と一番相性が良かったこと(笑)。両親には申し訳ないんですが、音楽が好きだったので、将来の道をどうするか考える時間も欲しくて大学に行った感じでした。ジャズ研究会に入ったのは、ジャズとかヒップホップとかいろいろな音楽が好きだったけれど、高校までは周りに話の合う人がいなくて、仲間を探したいというのもありました。ジャズ研には僕みたいなヤツがいっぱいいて、僕の知らない音楽もいっぱい知っていて、音楽的な影響もすごく受けました。

プロなんて、大学の初めのうちは全然見えていなかった。プロになれるのは本当に一握りだと思って、挑戦する前に勝手に諦めていたところがありました。なのに、変な自信はあって、自分はもっとできるとも思っていた。みんなが就職活動を始めて、自分はどうしようかと考えていた3年次の終わり頃、後にデビューするバンドの初ライブをやったんです。お客さんは確か20〜30人。でも、そのライブハウスの店長さんがすごく褒めてくれて自信になった。それで、デモテープをレコード会社とかに送ってみたら、全部返事が来たんですね。これはもしかしていけるかもと、4年次はそれしかやっていませんでした。周りとはまったく違うことをしていたので、ワクワクする気持ちと不安な気持ちの両方がありました。それでも、その頃には音楽の道しかないと決めていました。

自分ならもっとできる。そう信じていた

それから約20年。期待に応えたいという思いを常に持って、プロの音楽家として仕事をしています。

学生の頃の僕は、ほかの人の曲を聴いては文句ばかり言っていたんですよ。自分の方がもっとできると、すべてに対して思っていましたから。音楽の道を進んで行こうとしていた僕にとって、その気持ちを持ち続けるのは大事なことでした。それは、今も変わっていません。でも、いろいろな音楽を探していると、これは勝てないなという作品にももちろん出会います。そういう作品を作ったすごい才能を持つ人と実際に会うと、いろいろなことを感じて自分の中に取り込めるし、テクニック的に何かを盗むとかではなく、この人はこういう場合にこういう思考で動いているんだとかが分かって、自分の中で新たな武器になったりもする。

仕事でも趣味でも、興味を持ったものには集中し、とことん追求していくところが僕にはあります。特に仕事では、どういうふうに作られているのかすごく気になるし、自分もできるようになりたいと思うんですよね。

考えて考えて、考えて。時間はたっぷりあった

大学時代は、ジャズ研の部室にこもってほぼ音楽、あとはバイトとマージャン(笑)。模範的な学生ではなかったけれど、考える時間はたくさん持てました。今みたいにスマホやインターネットを使えるわけではなかったので、空想・妄想するんですよね、すごく。ほかの人が知らないような音楽を聴いていることで、仲間がいなくて孤独だと思うのと同時に、オレは特別なんだみたいに思う。そういう真逆の自分が常にいて、相いれないけれど実は似ていて、二面性があるということを反芻しながら考え続けていました。

結果、大学時代は飛躍するための準備をずっとしていた感じです。偏屈な人間で、周りのことを冷めて見ていながらも、やっぱり寂しいところがあって。けれども、自分はいつかでっかく成功してやるぞみたいな気持ちは、どこかにあった。まだ何者でもないけれど、好きな音楽のことを自問自答している時間でした。それは今、すごく役立っていますね。いろいろな若い人たちと仕事をする時に、気持ちが分かる部分があったりしますし。

思い返すと、大学生活は楽しかったな (笑)。すごく自由な学風で、本当にいろいろな人、面白い人が多くて。その仲間たちとは今も会っています。

その経験や感情が、人生に効く「ダシ」になる

大学に入った時は、世界がすごく広がった気がしました。今はSNSで誰とでもつながれるので、当時の僕のように同じ音楽を聴いている人が周りにいない、ということはないと思います。ただ、膝を突き合わせるみたいなことは、実際に人と会わないとできない。画面越しだと、また違うじゃないですか。そういう意味では、大学生になると世代の違う人にも会うようになるし、バイトでお金を貯めれば旅にも行けるだろうし、いろいろな経験ができる。たぶん、人生にとってその4年間はすごく大事だと思いますね。

僕は大学時代、悶々としながらも怠惰な生活を送っていた期間が多かった。何もしていないから、ずっと不安ではありました。でも、何かやろうというきっかけを持てる人は、その年代にそんなにいないと思うんです。それは、今も昔も変わらない気がする。僕も今なら、きっとスマホばかり見ているだろうし。でも、そういう時間があるのは学生の時だけだから、それはそれでいいと思います。ただ、スマホを見ているだけだと考えなくなってしまう。見るだけではなく何かを感じて、外に表現しなくても自分の中で変化があれば、それでいいんじゃないかな。それが後々、効いてくると思うんです、料理のダシみたいな感じで。

大学の良さは、自分が何者なのかとか、考える時間がたくさんあることがまず一つ。それと、今めちゃくちゃイケている人も陰キャもいると思うんですが、どういう状況だとしても仲間が見つかるきっかけになるということ。僕は、どちらかというと陰キャタイプで、陽キャタイプにもまあまあ人気があるという人間です。僕が会ったスターと呼ばれる人の中にも、ただ明るいわけではなく闇も抱えているから話がよく分かる人がいたりして、大人になっても仲間はどんどん見つかっていくんですよ。大学はそういうきっかけにもなるし、人生の糧にもなると思います。

だから、「北海学園大学、僕も応援しています」みたいな(笑)。いやでも本当に、絶対いいと思いますよ、大学って。

音楽プロデューサー/作曲家 蔦谷好位置
Koichi Tsutaya
北海学園大学経済学部1部経営学科
1999年卒業

1976年、札幌市生まれ。幼少時からピアノとエレクトーン、パソコンにも触れ、特にクラシックやジャズに深い興味を持ち独学。1998年に北海学園大学ジャズ研究会のメンバーとバンドを結成し、2000年にメジャーデビュー。その後、2004年よりクリエイターズ・ラボagehaspringsに加入し、YUKI、Superfly、ゆず、エレファントカシマシ、米津玄師、JUJU、back number、[Alexandros]、Official髭男dismなど、多くのアーティストへ楽曲提供やプロデュース、アレンジを行う。CM音楽や映画音楽な ども手がけるほか、自身の変名プロジェクト「KERENMI」でも活躍中。

※敬称略/学部学科名称は卒業当時のものです
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